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映画「グリーン・ブック」

グリーン・ブック ☆☆☆☆/☆☆☆☆☆

2018年のアメリカ映画です。1962年、イタリア系白人の用心棒が、ジャマイカ系黒人の天才ピアニストと南部を旅する間に、人種差別のおかしさに気づき、友情が芽生える……というような話です

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Spoiler Alert!

タイトルになっている「グリーン・ブック(Green Book)」とは……、本編にも出てきますが、旅行ガイド本のことです

wikiによると、「グリーン・ブック」は、1930年代~1960年代にアメリカで発行されていた、その名も「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック(The Negro Motorist Green Book)」という、車で旅行をする際の専用ガイド本のことで、ヴィクター・H・グリーンという人が創刊したので、「グリーン・ブック」なんだそうです

当時、アメリカは人種隔離政策を行っていて、黒人は国内の移動一つにしても、多くの差別を受けていたんですね

昔、スピルバーグの「1941」という映画だった思うのですが、戦車が、ニワトリ小屋とかドラム缶の集積地とかスーパーマーケットの中とか、アメリカのコメディでは「お約束」の場所を通り抜けるシーンがあり、どこだかを通り抜けた際に、戦車に乗っていた白人兵の顔が真っ黒に変わってしまい、同乗してた黒人兵たちが、「バスの後に行け!」と笑い飛ばすシーンがあり、そこで、アタクシは、バスの後の席が黒人用の場所だった、と知ったんですな。そういう、法律での差別(人種隔離政策)が、つい最近まであったのが、実はアメリカである、ってワケです

ここいらの感覚というのは、実は、我々日本人には、なかなか理解が難しいと思います。というのはアメリカの場合は、肌の色の違いが差別の対象となる。これはある意味わかりやすい。しかし、日本の場合は、ほぼほぼ同じ肌の色の人が多いので、ぱっと見では、人種の違いまではわかりませんね

もっとも、そんな感覚から、よく、「日本には人種差別がない」などと言う愚か者が後を絶ちませんが、そんなことはないです。日本は、昔も今も純然たる「人種差別横行・容認国家」でありますし、日本人も極めて差別的な国民ですよ、情けないことではありますが

例えば、何かと言えば、中国人だ!、韓国人だ!、北朝鮮だ!と口角泡を飛ばす輩も大勢いますし、そういった妄言を繰り返す政治家や企業人、医者に拍手喝采している連中もたくさんいます

何より、肌の色、髪の色、目の色、体つき……が違うだけで、当たり前のように「ガイジン」と、まるで一種の記号のような一括りにした呼び方もしてます。そして、政治家は閣僚に至るまで、あいも変わらず「日本は単一民族だ」などと妄言を繰り返すし、アイヌや沖縄に対しては、昔も、今も、途切れることない差別が、様々な形で続いてます。沖縄への米軍基地押し付けなんかは、その典型的な話でしょう

確かに日本では、この映画にも出てくるような「それだけ(←つまりは黒人である、というだけで)」で即、殴られたり、投獄されたりするケースは滅多にされない……つーか、ほとんどない、ってだけで。今は

まあ、そこいらの話は置いといて……映画の話に戻りましょう(笑)
 
アメリカにおける人種差別問題の歴史を振り返れば、今回の「グリーン・ブック」のような話は、よくあるストーリーでよくある展開……とも言えます。白人と黒人の差別する側と差別される側が、何からを契機にして交流を深め、その結果、白人側がこれまでの差別行為を悔い改める……というような話、これは枚挙にいとまがないでしょう。

そりゃそうです。そもそも人種差別には科学的根拠も物理的理由もないわけですから、差別の根源となっている「心の部分」が変われば、いくらでも変えられる話ってわけです。ですから、ドラマだけじゃなくて、実際にも、いくらでも起こりうる。今回の話も、実話が元ですから

「事実は東スポよりも奇なり」です(笑)

さて、NYのナイトクラブで用心棒をしている無教養で粗野で何かと暴力的だが「家族愛は深い」イタリア系白人のトニーは、ジャマイカ系黒人で、高い知性とクラシックやジャズで類いまれな才能を持つピアニストのドン・ドクター・シャーリーに雇われ、運転手兼ボディガードとして、ドンのディープサウス(アメリカの最南部)を回るツアーに同行します。これは実際に、ドンとトニーが1962年に行った南部への演奏ツアーを基にしているそうです

本作品はジャンル的にはコメディなので、2人の対比……例えば黒人と白人、教養ありと教養ナシ、家族ありと家族ナシ、金持ちと貧乏……は、マンガチックなまでに対照的に描かれます。まあ、ドラマ的にはステレオタイプのてんこ盛り、と言ってもいいかもしれません

ともすれば、そんな「二項対立」の羅列だけでは、説教臭い平凡な作品になりがちなんですが、ドンを演じたマーハシャラ・アリの抑えの効いた演技や、トニーを演じたヴィゴ・モーテンセンの指先の毛細血管まで血がしっかり行き渡っているような演技が、見るモノをぐいぐい引き込みます

キャスティングの妙と言えるかもしれません

ところで、この映画、実は、「差別は知らないところから生まれる」という根源的なことを描こうとしていたのではないか、とも感じました。というのは、そういうことを彷彿させる、なかなかに印象的なシーンが多かったからです

例えば、2人の旅の途中に、アメリカの美しい中~南部の大地が度々挿入されます。本編の中でもトニーがNYの家族に手紙を書いていますね。「オレの国はこんなに美しかったんだ」とかなんとか。NY育ち……つまり都会育ちのトニーにとっては、農業生産を行っているような中部~南部はまったく未知の世界で、どんな場所かすら知らなかった

そして映画は、その美しい大地と、その中で、前世紀のままに、それこそ、手足に鎖こそつけられていませんが、土埃にまみれながら単純労働に従事する黒人たちを映し出します。そして、その黒人たちからはトニーに対し、刺すような憎悪を込めた視線が向けられます

ドンの演奏を聴いて、トニーは心が震えます。「黒人の演奏」に、どうしようもない感動をしたんですね。そして、才能から呼び起こされる感動には人種なんか関係ない、ということを身をもって知ります

また、トニーは、ドンが遥かに教養があり、美しい言葉も文章表現も知っているということも知ります。そして、ドンとの旅を続ける中で、ドンの人となりを知り、ドンがいかに、「肌の色が黒い」というだけでいわれなき差別を受けているかを痛感し、その理不尽さに怒りを覚えるようになります

それまでのトニーは、黒人は劣っているもの、汚れているもの、だから差別して当然だ……そんな具合に、なにも考えずに、当たり前のように黒人を見下し、差別していました。しかし、ドンを知ったことで、「黒人」とは、全体をひっくるめた一つの記号のような存在ではなく、一人の人間を表現する属性の一つに過ぎない、という事に気づきます

トニーは知ってしまったわけです

まったく知らない相手への差別や暴力行為だったら、引き続き見過ごすことも可能だったのかもしれませんが、「ドンという人間」を知ってしまったトニーは、そのドンに対し行われる差別に、明確な「NO」を突き返すようになっていきます

To know is to love.

ひるがえって、ネット社会の現代においても、「面識のない相手」への攻撃は容赦がないですね。ましてや、自分の氏素性をさらさずに「匿名」の名の下に行う攻撃だとしたら……。「自分にとって知らない相手」に対しては、その相手を暴力的なまでに貶めているという認識すらもっていないじゃないかな?
そしてその相手が、もし「身内」だったとしたら、また、どこのだれであるかを明確に名乗った上では、果たしてそこまで他人に対し攻撃的になれるのだろうか?

なれないと思います。意図的に攻撃をするのならともかく。

黒人……という存在は知っている。しかし、実生活などで、具体的なその人となりを知らなければ、記号論的な差別に無自覚に加担してしまう……トニーは、ドンと旅をしたことで、この呪縛から解放されました

もちろん、現実世界では、そんなに簡単にモノゴトは変わらないでしょう。しかし、知ることで理解出来ることもある。差別は無知からも引き起こされる

世界を変えることは出来ないかもしれませんが、知ることで、無知から脱することで、自分を変えること、自分が変わることは出来る。そういう人が増えていけば、やがて世界も変えられるんじゃないでしょうか?少なくとも、人間を肌の色で差別するような「人種差別」なる、もっとも愚劣な行為はなくせるんじゃないでしょうか?

この映画は、時に笑わせながら、時に憤りを感じさせながら、そんなことを考えさせてくれる、いい映画だったと思いますね。見てないかたは、Amazonプライムでも、Netflixsでも何でもありますから、是非、見てください(笑)

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